多様性を認め、価値観が異なる人同士がつながるようになった今、誰かを傷つけたり、自分自身の評判を落としたりする可能性が高まっています。
そのようなリスクを回避するためには、ポリティカルコレクトネス(ポリコレ)について理解を深める必要があります。
企業の社会的責任も大きくなっていることから、ポリコレについて知っておくことは必要不可欠だと言えるでしょう。
そこで今回は、ポリコレの概要や歴史、求められるようになった背景、具体的な事例、企業が取り組むべき理由、企業が行うポリコレ対策について解説していきます。
ポリティカルコレクトネス(ポリコレ)とは?
ポリコレは、ポリティカルコレクトネスの略称です。
英語だと、“political correctness”や“PC”と表現されます。
日本語に訳すと、“政治的な正しさ”という意味になります。
偏見が生まれる表現や社会制度などを中立的かつ差別がないものにすべきだという考え方です。
社会的弱者と呼ばれる人々やマイノリティを守るための運動もポリコレに含まれます。
ポリコレの歴史について
ポリコレの歴史は比較的長いですが、日本では使われるようになったのはごく最近です。
そこで続いては、海外と日本におけるポリコレの歴史についてみていきましょう。
【海外におけるポリコレの歴史】
ポリコレは、アメリカの人権意識が高まったことが発端と言われています。
アメリカでは1980年までWASP(アングロ・サクソン系でプロテスタントの白人)が社会の中心となっていて、マイノリティとの衝突が絶えませんでした。
マイノリティの呼び方は政治的な正しさに欠けるという考え方を容認する社会的背景が問題を助長していたのです。
そのため、1980年代以降になるとインディアンをネイティブ・アメリカンと呼ぶなど、偏見や先入観に由来する名前を変更する動きが強まっていきました。
また、1917年のロシア革命後のマルクス・レーニン主義の用語だったという見方もあります。
その当時、旧ソビエト共産党の政策と原則を守ることを意味する言葉として使われていました。
1970年代後半~1980年代前半にかけては、リベラルな政治家が左翼の過激派に対して使うようになりました。
1990年代初頭には、アメリカの大学で行われているリベラルなカリキュラムに対して使われるようになったという説です。
【日本におけるポリコレの歴史】
日本国内では、世界的に進められているポリコレの影響を受けることとなりました。
日本の場合は、ジェンダーに紐付けて、ポリコレがどのような概念か理解するのがわかりやすいでしょう。
ポリコレの影響は以下のような点に表れています。
・看護師
以前は、女性が看護婦、男性が看護士と呼ばれていました。
しかし、2002年の保健師助産師看護師法の改正に伴い、男女ともに看護士という呼び名に変更されています。
・保育士
以前は、保母と呼ばれていましたが、1999年の児童福祉法の改正に伴い、保育士という呼び名に変更されています。
・客室乗務員やキャビンアテンダント、フライトアテンダント
以前は、スチュワーデスと呼ばれていましたが、1996年に日本航空がその呼び方を廃止しました。
その後、他の航空会社も追随し、客室乗務員やキャビンアテンダント、フライトアテンダントと呼ばれるようになったのです。
当時、これらは女性がする仕事だと考えられていました。
しかし、働き方が変化したことで男性にも間口が広がったため、名称を変更することになったのです。
ポリコレが求められるようになった背景
ポリコレは世界的に求められるようになってきました。
その背景にはいったいどのような理由があるのでしょうか?
多様性によってもたらされる豊かな社会を実現するため
日本もそうですが、世界的に多様性を尊重する動きが目立っています。
多様性がある社会だと、それぞれの考え方や価値観が相互作用を生み、新たな発想やイノベーションが生まれやすくなるためです。
ポリコレで差別的な表現を是正できれば、誰もが生きやすい環境にもなるでしょう。
そのような環境であれば、人種や性別、国籍、年齢、宗教、障がいなどに関係なく、それぞれの能力を発揮しやすくなります。
そして、豊かな社会を創造し、持続可能な未来につながると考えられています。
企業の社会的責任が重視されるようになってきた
多様性を尊重する世界に向かっている中で、企業も動向も注目を集めています。
企業活動におけるポリコレは、社会的な信用や価値の向上につながるためです。
手掛ける商品や広告、採用活動などにポリコレを適用することで、企業の責任や姿勢を外部にアピールできます。
さらに、顧客やステークホルダーへのアピールができたり、事業を運営する際にも良い影響をもたらしたりといった効果も期待できるでしょう。
一方、企業がポリコレを無視してしまうと、社会的な非難を浴びる対象になりかねないので注意が必要です。
具体的な事例
ここまでポリコレについていろいろ説明してきましたが、より理解を深められるように具体的な事例もご紹介します。
【人種に関する表現】
人種は、ポリコレでも触れる機会が多い内容です。
ここでは、黒人が「Black」と呼ばれていた事例をご紹介します。
黒人はかつて「ブラック」と呼ばれていたのですが、この言葉には差別的かつ侮辱的な意味が含まれていました。
そのため、「アフリカン・アメリカン」という表現に変わったのです。
「ブラック」は肌の色から連想される言葉ですが、差別的な解釈ができるとしてネガティブなイメージを持たれていました。
「アフリカン・アメリカン」という呼び名に変更されてからも、実は問題がありました。
それは、アフリカ系アメリカ人に限定されてしまうという点です。
「ブラック」のルーツはアフリカ系アメリカ人に限定されませんが、「アフリカン・アメリカン」にアイデンティティを感じられない人も一定数存在するという事態が起こっています。
ポリコレの代表的な事例であり、問題が解消されていない表現だと言えます。
【性別関連の表現】
・職業の呼び方
前述したように日本国内では呼び方が変わった商業があります。
職業名から性別を連想させるものは、基本的に変更されています。
これは、日本に限った話ではなく、世界的な風潮です。
・名前の前後につける敬称
敬称もポリコレの影響で変化しています。
男性の名前の後ろには「くん」、女性の名前の後ろには「ちゃん」や「さん」が付けられていました。
しかし現在は、男女ともに「さん」で統一されています。
敬称による差別を防ぐだけではなく、性的指向にも配慮した表現として浸透しています。
また、学校では男女別に出席番号を付けるというやり方も廃止されるといった変化が起こっているのです。
海外の場合だと、男性の敬称は「Mr.」で統一されていますが、女性は既婚者が「Mrs.」、未婚者が「Miss.」と分けられていました。
既婚か未婚で区別するのは差別的だと考えられ、現在はいずれも「Ms.」と呼ばれるようになっています。
・服装に関する規定
服装に関する規定は、性別が大きく影響しています。
学生の制服が良い例でしょう。
男子はズボン、女子はスカートというのが一般的でした。
しかし、性別で服装を規定するのは差別的だと考える風潮が顕著になり、制服を選択できる学校が増えています。
【思考・思想関連の表現】
・性的指向
性的指向は、多種多様です。
特定の指向性が非難されたり、侮辱されたりするケースも、残念ながらこれまでに多くみられました。
しかし現在は、LGBTQ(Lesbian(レズビアン)・Gay(ゲイ)・Bisexual(バイセクシュアル)・Transgender(トランスジェンダー)・Queer(クィア)/Questioning(クエスチョニング))という概念が認知されています。
そのため、特定の性的指向や思考を持つ人を排除するといった風潮は少なくなり、受け入れるべきだと考えられるようになってきました。
例えば、戸籍上の性別と性自認が異なる場合は、自分の意志と反する規定に従わなければいけない時代が長くありました。
そのような状況下でポリコレの影響を受け、差別や誤解を招いてしまう表現は排除されつつあり、自分自身の指向に合わせた選択がしやすくなっています。
・宗教
宗教の選択も、以前は差別の対象となる場合がありました。
信じている宗教以外を知る機会が少ないため、知識不足や理解不足が起こり、差別につながっていたのです。
特定の宗教を信仰する人が傷ついてしまうケースは少なくありませんでした。
今は、公正な表現が求められるようになり、宗教による差別は少なくなっています。
しかし、政治と密接に関わる部分も少なからずあるので、ポリコレの表現を使ったとしても議論が絶えない事柄の1つです。
【SNSにおける炎上】
ポリコレの考え方に抵触し、SNSで炎上してしまった事例も少なくありません。
SNSは爆発的な拡散力があるので、炎上してしまうとネガティブなイメージが付きまとうことになってしまいます。
SNSで炎上してしまった事例には、以下のようなものがあります。
・人種差別だと感じられる表現
・日用品メーカーや食品メーカーのCMで人種差別だと感じられる肌の色の表現
・性的搾取だと感じられる表現
・政治家やお笑い芸人による女性軽視の発言 など
企業が行うポリコレ対策とは?
ポリコレの表現は、あらゆる場所で意識しなければいけない状況になっています。
最後に、企業が行うべきポリコレ対策についてみていきましょう。
【従業員向けの対策】
・ハラスメント対策
企業内で重視すべきなのは、ハラスメントが生じる可能性がある場面です。
2020年6月にパワハラ防止法が施行され、研修の実施や直接的な注意などの対策を講じている企業が多いと考えられます。
ポリコレを重視した施策を行うことによって、ハラスメント対策にもつながるのです。
民族や人種、ジェンダーなどに対する意識を持った状態でコミュニケーションを取れば、円滑なコミュニケーションを実現しやすくなります。
対外的な取り組みはもちろん大切ですが、従業員が安心して働ける環境を構築するためにも、意識を高めることが重要です。
・制度に関する対策
福利厚生や給料制度がポリコレを意識したものになっているか考えたことはありますか?
男女で給料体制に差がある場合は、改善すべきです。
また、育児休暇を男性も取得できるようにしたり、アニバーサリー休暇など未婚の従業員も休みやすい体制を整えたりといった配慮が必要です。
また、宗教上休暇を取得しなければいけない理由があるなら、休めるような制度を整備しましょう。
・グローバル化に関する対策
これからポリコレを検討すべきなのは、グローバル化に関する対策だと考えられます。
少子高齢化による人手不足から海外へ進出する企業が増えていて、国籍にとらわれることのない採用活動を行うケースも増加傾向にあります。
海外の企業と取引をする場合は、無意識に差別的な発言をしてしまう可能性もゼロではありません。
そうなった場合、大きなトラブルにつながる可能性が高いです。
トラブルを回避するためには、ポリコレに関する理解を深められるような研修を行ったり、コミュニケーションなどの注意点をまとめたマニュアルを用意したりすると安心です。
【求職者向けの対策】
・求人を出す時の対策
求人の募集要項には、性別を限定するような表現や服装の規定も見られました。
しかし、現在は徐々に改善されています。
男女で異なる服装規定を設けたり、特定の性別に限って募集したりしている場合、今後は変えていくべきだと言えるでしょう。
性別による服装や髪型、ネイルなどの規定が異なっていないか、精度や福利厚生に差がないか、といった点は特に確認すべきポイントです。
・面接を行う際の対策
面接では様々な質問をしますが、質問内容に気を付けなければいけません。
タブーとされているのは、家族関連・居住地関連・性的指向関連・宗教関連です。
これらは、ポリコレの観点で考えてみると当然だと言えるでしょう。
上記に関連した質問をすることで、無意識のうちに差別的な扱いをしてしまう可能性があるからです。
面接時の質問内容を面接官に一任している場合は、ポリコレを考慮した質問になっているか確認するようにしてください。
まとめ
偏見が生まれる表現や社会制度などを中立的かつ差別がないものにすべきだという考え方がポリコレです。
以前は職業の呼び方や敬称が男女で違うのが当たり前とされていました。
しかし、それは差別的だと考えられ、現在は変更されています。
その他にも、考慮すべき要素はたくさんあります。
従業員を雇ったり、情報を発信したりする場合も、意識しなければ反感を買う可能性があるので、十分に注意が必要です。